【天孫と共に降臨した伊勢の豊穣神】
イザナミの子であるワクムスビの娘がトヨウケビメです。ニニギノミコトに付き従い高千穂に降臨した穀物神がトヨウケビメで、伊勢神宮の社伝によると、21代雄略天皇の枕元にアマテラスが現れて、『ひとりでは安らかに食事が出来ないのでトヨウケビメを近くに呼び寄せなさい』とお告げがあり、丹波国より遷宮させたと伝わります。農業神の中心ともいえる「穀霊/穀物神」を基本的な神格としている神の代表がトヨウケビメでウカノミタマと同一視されています。
『丹後国風土記』にトヨウケビメの天女伝説が記されています。それによると「丹波国の泉に天女8人が舞い降り水遊びをしているのを見ていた老夫婦が、1人の天女の羽衣を隠してしまった。羽衣が無い天女の一人が天に帰れずに泣く泣く老夫婦の養女となり、病に効く酒を造って夫婦に多くの富をもたらした。ところが、十余年ほども経つと、夫婦から家を追い出されてしまったのである。漂白した末に奈具村に至り、村の鎮守となった。」この天女がトヨウケビメで奈具神社(京都府宮津市)の起源ともされます。
古代では水と米で作られる酒は貴重なもので、トヨウケビメが穀物に限らず酒造り(薬)にも縁深い存在だったのが、この伝承でも見られます。
神様にささげる神饌に米と酒を用いるのは、トヨウケビメのこうした逸話や神格によるものかもしれません。アマテラスがトヨウケビメを外宮に招いた理由は、単に穀物神だからなのか、それ以外の理由があったのかは分かりませんが、丹波から外宮に鎮座される事によって、より崇敬される存在になったといえます。
古来の朝廷は伊勢神宮(内宮、外宮)を篤く奉りましたが、明治時代になると政府の介入によって神宮の在り方も変わってきます。皇祖神を祀る神社は「内宮」のみとされましたが、政府が御触れを出すほど「外宮」の影響力が強かったことを意味し、「伊勢神道」を確立したのが外宮を氏神とする渡会氏であり、江戸時代には多くの学者を輩出していた事と関係があると思います。
しかし、「外宮」が今でも日本中から多くの人々に篤く信仰されているのは、トヨウケビメの「徳」の高さのおかげでしょう。
太陽から頂く恵みの象徴であった「穀物」「酒」を司るトヨウケビメは、農耕民族の我々日本人にとって、「太陽神」にも劣らないかけがえのない神様であるのは間違いありません。
【神格】
食物神、穀物神
【御利益】
農業、漁業、衣食住の諸産業、開運招福、厄除け
【別称】
豊受大神(トヨウケノオオカミ)、豊宇気美売神(トヨウケビメノカミ)、豊由宇気神(トユウケノカミ)、豊受気媛(トヨウケノヒメ)
【系譜】
ワクムスビの子
【祀られている神社】
伊勢神宮・外宮 (三重県伊勢市豊川町)
籠神社 (京都府宮津市大垣)
豊受大神宮 境内 多賀宮 (三重県伊勢市)
豊受大神社 元伊勢外宮 (京都府福知山市)
奈具神社 (京都府宮津市)
瀧原宮 (三重県度会郡)
夕日神社 (富山県氷見市)
岡上神社 (徳島県板野郡板野町)
賀羅加波神社 (広島県三原市)
伊勢神社 (岡山県岡山市)
廣瀬大社 (奈良県北葛城郡河合町)
御前神社 (福井県あわら市)
唐松神社 (秋田県大仙市)
礒部稲村神社 (茨城県桜川市)
二所山田神社 (山口県周南市)
ほか、全国の神社